中日新聞

enjoy★本屋さん 中日新聞プレゼンツ

書店員の書評

武藤晃享さん

株式会社三洋堂ホールディングス 商品部 書籍・雑誌Gバイヤー

罪の声

罪の声

塩田武士 著(講談社)

「グリコ・森永事件」と呼ばれる昭和最大の未解決事件がある。
一九八四年から一九八五年にかけて起こった、阪神の食品会社を標的とした企業脅迫事件である。
「罪の声」はこの事件を題材にした社会派ミステリだ。「ギンガ・萬堂事件」と名を変えて、しかし一連の事件の内容はほぼノンフィクションで描かれている。

物語の視点は二つ。
亡くなった父の書斎から出てきたテープに録音されている「身代金取引の声」が幼少期の自分の声だと気づいた男性と、未解決事件の企画をまかされた新聞記者。
そして、求める真実は二つである。
「自分の父親が犯人だったのか?」
「巨額な現金を何度も要求しておきながら、結局一度も引き渡し場所に現れなかった犯行グループの本当の目的はなんだったのか?」

フィクションとノンフィクションを混ぜ込んで進行する仕掛けは実に巧妙で、どこまでが現実で、どこまでが虚構なのかを良い意味でわからなくさせている。だから読み手は、推理小説を読んでいるような高揚感と、実際の事件を目の当たりにしているような焦燥感を味わいながら読み進めることになる。
特に、4つ目の脅迫事件「ホープ食品事件」で、主人公の記者が高速道路上での犯人と警察の攻防についてある違和感を覚えるシーンには、思わず背筋がゾクリとしてしまう。推理小説で、トリックがわかった時のようなあの感覚。ミステリとしても事件を振り返る資料としても一級品ではないだろうか。

ただ、作者の狙いが「真犯人」を特定することではない点には注意しなければならない。
最大の焦点は、あくまで犯行に声を利用された「テープの子供」であるということ。
「自分の声が犯行に使用された」たったそれだけのことで、事件に巻き込まれた人の人生がどうなってしまうのか。
読み終えると、普段新聞やニュースで見かける事件や事故の見方も変わってくるように思える。

複雑に絡み合った未解決事件をさらに深く追体験するために、読まれる方にはぜひ事件関係者の相関図のメモを作りながら読み進めることをおすすめしたい。

ページのTOPへ